MIMOCA NEWS 004


 
第4回 多彩な猪熊の才能
 
前回に引き続き、秋に開催される「開館10周年記念 猪熊弦一郎の仕事展―時代を生かし彩ったもうひとつの世界」について内容を少し具体的にお話したいと思います。

今回の展覧会は今までになく多方面から猪熊の仕事についてアプローチします。展示の予定を申し上げますと、3階のパブリックアートのコーナーでは上野駅の大壁画をはじめ、帝国劇場、半蔵門線三越前駅壁画、ホール緞帳の数々を、グラフィックデザイン関係ではご存知の三越包装紙「華ひらく」の原画もご覧いただきます。
 

小説装丁画
 

2階は絵画と文芸に絞ったテーマで構成いたします。猪熊は昭和23年から40年間小説新潮の表紙絵を477カ月に渡って描いており、そのモダンな画風は長きにわたって人々を魅了しました。小説新潮からは約20点出品いたします。さて、ちょうどこの頃は戦後人々が絵や活字を求め、出版の気運が高まっていた時でもあり、数多くの出版物が刊行された時でもありました。その時代のニーズとでも言いましょうか、猪熊は週刊誌や月刊誌以外の小説の装丁でも多くの作品を手掛けています。そこで小説の装丁に関して30数点を選び、本の現物を展示いたします。一例を挙げますと、石坂洋次郎の「青い山脈」、大佛次郎「雪崩」、舟橋聖一「花の素顔」、井上靖「闘牛」、そして三島由紀夫の「假面の告白」などがあります。これらはほんの一部ですが、本としても珍しい作品が揃っていますので、文芸ファンの方にとっても興味深い展示ではないかと思います。


さらに特筆すべき作品としては、前回号でお話をした映画ポスターに加え、週刊朝日の表紙を飾った油彩による「原節子像」があります。この作品は個人蔵ですが、不思議なご縁で今回展示できることになったものです。さらにもう1点、大相撲関係の作品も出品いたします。それは猪熊の直筆による化粧まわしの絵です。力士名は今後の楽しみとしてここでは秘密にしておきましょう。所蔵されている親方のご厚意をもって今回特別にお借りし展示するものですので、見逃すと今後見ることは難しいと思います。

本展はより生活に密着したアートとして、これらの作品を身近に感じていただけることと思います。この新しいイノクマ・ワールドは皆様が持っている画家・猪熊弦一郎のイメージをガラリと変えてしまうかも知れません。どうぞご期待下さい。
 
☆ コーナー名の"Cats in the Storage"とは『収蔵庫の猫たち』という意味です。
猪熊弦一郎の愛して止まなかった猫にちなんで名づけました。
 


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