MIMOCA NEWS 005


 
第5回 展覧会レポート
 

当美術館では「開館10周年記念 猪熊弦一郎の仕事展 −時代を生かし彩ったもう一つの世界−」を2001年9月22日(土)から12月9日(日)まで開催しました。

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館は2万点余りの猪熊の作品を収蔵しています。これらの作品を紹介し、猪熊を理解してもらうために、開館以来年に2回程度の猪熊展を開催してきました。また、近年では他館で猪熊弦一郎展が開催されることも多くなり、作品の貸出しもしています。しかしこれらはカンヴァスに描かれたものが多く、生活する上で目にする機会は少ない作品です。猪熊にとって車の両輪をなすとも言える生活を豊かに楽しくする、生活空間に深く入りこんだ作品はこれまでほとんど紹介されることがありませんでした。そこで美術館が開館して10年を迎えることができた記念として今までと少し違った観点から見た猪熊を紹介する展覧会、「猪熊弦一郎の仕事展」が計画されたのです。


本展では2階の展示室で戦後10年間の作品を中心に新聞連載小説の挿絵原案や雑誌の表紙絵原画、その他猪熊が装丁画を手掛けた本などを展示しました。また、3階の展示室では猪熊がデザインした緞帳(舞台にかかる幕)や壁画を写真パネルと原画などで紹介するとともに、テキスタイル、家具や企業のポスター、包装紙なども展示しました。

今回の展覧会では実際に展示作品をリアルタイムで目にされている方も多く、それが猪熊の作品であることを改めて知ったという声も聞かれました。


さて、猪熊にとって日常生活は重要なものでした。ダンスを楽しみ、自身の生活空間を美しくしつらえた猪熊は、一方で厳しい作品の制作に打ち込みました。日々の暮らしを大切に送ることが出来たからこそ、数々の大作が生まれたとも言えます。そのような猪熊が自分の画家としての才能を実際生活にどのように生かせるかを考えた時に思い至ったのが壁画の制作であり、より人の眼に触れる表紙絵や挿絵を描くことでした。

現在ほど仕事が細分化されておらず、娯楽も少なかった戦前、戦後の時期は画家が実体を持って人々に認識され、話題にも上り、活躍の場も広く求めることができました。それでもやはり芸術は日常生活とかけ離れたものと捉えられがちな雰囲気があるなか、「美はあらゆるところにある」「芸術は一部の人のみのものではない」という考えのもと、猪熊は本当に身近なところに良いものをつくりつづけたのです。

今回の展覧会では身近な作品が多かったこともあり、多くの方々に楽しんでいただけたようでした。しかし今展での展示作品と従来展示してきた絵画作品とのどちらも、猪熊が用途、状況に合わせて持てる力を注いで制作したもので、テーマの選び方、色遣い、作品に描きこまれたものなど、共通する点も多くあります。この展覧会をきっかけにして、これからも猪熊の作品により興味を持っていただければと思います。

 
☆ コーナー名の"Cats in the Storage"とは『収蔵庫の猫たち』という意味です。
猪熊弦一郎の愛して止まなかった猫にちなんで名づけました。
 


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