MIMOCA NEWS 009



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このコーナーでは、美術館で働く人にインタビューし、普段なかなか知る機会のない舞台裏や職員の声をご紹介します。
今回は、小佐古公士(こさこきみお)「館長」にお話をうかがいました。MIMOCAの「館長」は、丸亀市教育委員会の教育長が兼任しています。


Q.「館長」ってどういう仕事?

A.丸亀市の教育長が兼務するということで館長になったわけで、館長だからといって美術的な素養があるわけではなく、自己流だけれども、「丸亀市民が関心を持って来てくれるような美術館になったらええな、美術館職員がやる気を持って働けるような職場にしたいな」と、ずっと考えています。今はお金がない中で苦労して館独自の展覧会を作っていく時代になっていると思います。職員みんなが気持ちを一つにしてやる気を持って初めて新しいものを作ることができる、つまりいい展覧会が生まれるのであって、そのためにはお互いに刺激を与え合いアイデアを出し合ったうえで、みんなで議論し考えてほしい。そういう職場をつくるのに、具体的にどうしたらいいのかはまだ分かりません。ただ、一人一人の仕事に目を配ることが大事だと思いますので、美術館に行ったらひととおり職員みんなに声をかけています。


Q.好きな作家は?

A.こないだテレビで見たピカソの番組、あれは面白かった。作品は好きではないけれど。分かりにくいから。好きな作家は、ルノアール、クールベ、ドガ、彫刻ならマイヨール。新しい時代を切り開こう、今までと違う新しい方向を手探りで見つけていこうとしているのがいいなあ。


Q.それはまさに"現代美術"のことでは?"現代美術"をどう思う?

A.正直難しいとは思いますが、分かりたいとも思う。同じように思っている人はたくさんいるでしょう?そういう人に観てもらうには、いかにアピールするかじゃないですかね。「MIMOCA現代芸術入門講座」、あれは新しい試みだと思う。美術館の意図と、自分がそうありたい、少しでも分かりたいという気持ちが一致します。出来る限り欠かさず聴いています。作家本人の話を聴くというところがいい。みんな視点はちょっとずつ違うけれど、それぞれに何が一番良いか工夫している。苦悩の中で作品が出来る、新しいものを求めようとする意欲、その人のエネルギーが分かります。これは、現代美術を理解しようとする「きっかけ」になる。"現代美術"のアピールとしてこれ以外にないんじゃないかな。ええ企画やなと思います。話は飛びますが、美術が芸術だと知ったのは大学生になってからです。1年生のとき、アメリカ軍が撮った太平洋戦争の写真集が出ました。そのとき思い出したのは、小学5、6年生の頃に少年雑誌で見た、たぶん藤田嗣治ではなかったかと思いますが「硫黄島玉砕」の絵。15人ほどが入り乱れた肉弾戦の絵で頭に焼き付いていました。ところが写真集で見たサイパン島の玉砕の記録写真というのは、とても静かなのです。広いところに死体がポツポツと見える。何枚も何枚も見てやっと何か激戦の様子が思い浮かぶ。一枚の絵、場面が子どもの私に与えたインパクトとは全然違いました。絵には作者の気持ちがこもっている、全エネルギーを投入している、絵は芸術なんだと思いました。話を戻すと、たとえばこういった具象と比べて抽象絵画は、色、線の引き方、形などで自分の思想を表現していくからやはり難しい。けれども人を惹きつけている。しかしやっぱり難解。そこに若干の説明があったらもっと面白いです。とは言え、ただの解説ではつまらない。「入門講座」で本人が語るのとは距離感が全然違う。あと作品の見せ方について、個人的にはいろんな作家で抽象ばっかり並べた展示が面白いですな。今回のイン/プリント展はそれのいい例です。


Q.猪熊作品をどう思う?

A.
中学校に入ったときに初めて知りました。猪熊先生と同じ丸中(丸亀中学校)で。講堂の正面に向かって左右に絵があって、左が猪熊先生の山の絵でした。講堂で精神講話を聞くのにくたびれてきたら絵を見ていた。ですから親しみがありますよ。2回目の出合いは勤務先の中学校にあった猫の絵でした。ところが、一昨年の「開館10周年記念 猪熊弦一郎の仕事展」を観て初めて知ったんだけれども、その前にも出合っていました。「ビルマの竪琴」の挿絵を描いてらっしゃったそうですね。この本を、教員になったばかりのときに道徳の時間に生徒に読み聞かせていて、挿絵を猪熊先生の絵だとは知らずにいつも見ていました。あとは館長になっていくつか作品を購入しましたが、結局一番気に入っている1点ばかりを家ではかけています。


Q.猪熊画伯をどう思う?

A.一度お会いしたとき、親指、人差し指、中指を立て、それぞれ違う方向を指して「いろんな方向を向いているでしょう?子どもも同じです。それぞれの良さを見つけてそれぞれの方向に伸ばしてあげてください。」とおっしゃったのが心に残っています。建築家の谷口吉生さんに聞いた話ですが、壁画「創造の広場」、猪熊先生の下絵には画面一杯に馬が描かれていたのを、谷口さんが真ん中あたりを白く消したそうです。そしたらムッとして15分ほど沈黙が続いたあとで、「これもいいね」とおっしゃった。ご高齢であって若い人の考えを素直に受け入れたその器量の大きさ、柔軟さは、新しいものを作る人ならではと驚きました。


Q.館長になってなにか変わったことは?

A.猪熊先生の作品を見かけたら、それと判るようになった。


Q.印象に残っていることは?

A.展覧会はダリ展。手の込みようが面白かった。コンサートは矢野顕子さん。それから、ニューヨークから30人くらいの方が視察に見えたときにはびっくりしたなあ。「うわっ、そんな有名なんか」と思いました。


Q.おすすめスポットは?

A.美術図書室の空間。絵を鑑賞して疲れたらぜひ。静かでいいですよ。


Q.好きな言葉は?

A.我この道を行く。この道の他に我を生かす道無し。


Q.お客様へのメッセージをどうぞ。

A.ぜひ来て下さい。猪熊先生がおっしゃったような心安らげる空間にしていきたいと思っています。気持ちよく、好きな時間、好きなだけ鑑賞して休んでいただければ。時々、お客様の感想に「元気をもらった」とあります。これは意外でした。それまではギスギスした世の中にあって「癒す」空間としか考えてなかったけれど、明日へのエネルギーを注入する場でもあることをお客様に教えてもらいました。



<インタビュアー感想>

日曜日の午後、ふらっと現れて館内をゆっくり巡る、それが小佐古館長のイメージです。また、講演会などあれば、ホールの端の席で身を乗り出して必ず最後まで熱心に聴いている姿も印象的です。『丸亀市の教育長が兼務するということで館長になった』わけではありますが、それを好機にMIMOCAファンとして美術館を楽しんでいるのでは?と内心思います。そして、それはMIMOCAにとってとても幸せなことだ、とありがたく思っています。




<フォトグラファー感想>

美術館へ来ると、いつも気軽に声をかけて下さる館長。働いている人のことをふくめ、いつも美術館の全体を見ていらっしゃるのだと、インタヴューを通して感じました。
やさしく飾らない人柄が写真から伝わりますか?





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