なぜ、駅前なのか。なぜ、現代アートなのか。

その答えは、猪熊弦一郎の、現代へ生きる人々へのメッセージともいえます。MIMOCAの特色に紐づいて、そのメッセージを読み解いていきましょう。

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MIMOCA 落成式、1991

駅前美術館
丸亀市が用意したいくつかの候補から、猪熊は迷わず駅前を選びました。交通の便が良い駅前に美術館があれば、人々は気軽に何度でも美術館に立ち寄ることができるからです。

美しい空間
「心の病院」となる美術館には、身を置くだけでリフレッシュできる、日常にはないような美しい空間が必要です。建築に精通する猪熊は、信頼を寄せる建築家・谷口吉生(1937-)に設計を依頼し、「大きなスケール感がある建築で、光がよければ、あとは一切何も言わない」(*1)と言ったそうです。二人はしっかり話し合ってMIMOCAの理念を共有し、それを谷口が建築に反映しました。そして、広々としてシンプルで、光あふれる美しい空間が完成しました。また、猪熊は谷口の手がける空間で自分にどんなことができるのか考え続け、調度品やトイレのマークなどたくさんのアイデアを出しました。MIMOCAの空間には猪熊の考えがすみずみまで行き渡っています。

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photo:Tadasu Yamamoto

現代美術館
猪熊はMIMOCAが「現代美術館」であることを重視しており、「ただなんでも絵をここへ並べるんじゃないんです。コンテンポラリー、今の、表現したものをここへ並べるっていう特殊な美術館を作ってるわけですね」(*2)と語りました。今を生きるアーティストが、自分自身に向き合い、深く考えて生み出した作品には、アーティストの視点を通した今の時代があらわれています。中でも優れた作品には、これまでにない新しいものの見方や考え方を観る人に投げかけます。

子どもたちのために
猪熊はMIMOCA開館時に「子供たちの美術教育など、美の分かる人を作ることが、本当の平和を築くことになると信じます」(*3)と述べました。
心を開いて様々なことに興味を持つことで、たくさんの美しいものに出会えます。美しいものに共感する心は、その人の人生を豊かにします。感受性の強い子どもにとっては、たった一つの刺激でもいろんな影響があります。そのような体験をすることが、美しいものに共感する心の土台になると考えていたからこそ、猪熊は子ども向けの事業に力を入れました。MIMOCAでは、子どもの観覧料無料にはじまり、現在もワークショップや鑑賞教育に取り組んでいます。

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ワークショップ(「猪熊先生を描こう」)の様子、1991年

「都市にある教会がいつも人々の憩いの場、ふれあいの場となると同時に、精神的な安らぎと救いを与える場であるように、美術館も、人々のふれあいの場がひらけ、その美術館に入ることによって精神的なストレスをいくつか取り除き、大勢の人々の心をいやす場となることが必要であると思う」(*4)

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良い作品に出会い、心が感じたままに受け止め、悦びや希望、生きるヒントを得るー。

だからこそMIMOCAは訪れる人々にとって「心の病院」であるべきだと考えます。

*1―「設計者 谷口吉生に聞く」聞き手:古谷誠章、『エスキスシリーズ4 建築を見る 谷口吉生「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館・図書館」』 2001年6月10日発行 彰国社 p.8
*2―猪熊弦一郎が亡くなる3日前(1993年5月14日)にMIMOCAの職員に語った話を録音したカセットテープより
*3―「HOTLINE」、『月刊美術』 1992年1月号 p.94
*4―「大田区美術館の早期実現を願って」猪熊弦一郎、『第3回大田区在住画家美術展』カタログ p.5、1989年発行

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◎関連リンク

MIMOCAについて①
猪熊弦一郎について