丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(以下、MIMOCA)では、2023年3月21日(火・祝)から6月4日(日)まで、「山城知佳子 ベラウの花」を開催しています。開催前日の3月20日(月)、出品作家であり、映像や写真作品で国際的に活躍する山城知佳子さんを迎えてプレス内覧会を行いました。その様子をご紹介します。

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新しいサウンドインスタレーション
本展では、山城知佳子さんの初期から近作及び新作の合計18点が出品されており、作家が何をまなざし、そしてどのように行動しながら制作してきたかを鑑賞者に感じてもらう構成にしています。

山城さんは、西日本エリアでの初めての大規模個展開催に緊張すると同時にどういうふうに読み取られるか、また違った反応が得られるのではないかと期待していると率直に今の気持ちを述べた上で、今回の展示について次のように語りました。
「(3階の展示室は)音がかなり響き、非常にむずかしい空間でしたが、結果的にサウンドを絡めた新しいインスタレーションにチャレンジすることができました。近年の個展の中でも音響がうまくイメージと響きあい、何周しても常に違う音が聴こえてきて映像が変化し続ける表現ができました。まるで個展会場の作品すべてが一つの作品のように響き合ってうごめいているように感じられます」


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撮影:笹岡啓子

展示室は《沈む声、紅い息》(2010)から始まります。沖縄戦の継承シリーズの一つであるこの作品について、山城さんは「私にとって初めてのフィクションのかたちをとった作品です。 ""がキーワードとなり、戦争体験をされた方々は、高齢化とともに語れなくなってしまったりするわけですが、その後に残された""を残された者がいかに聞き続けられるのか、を考え続けて作品を制作してきました」と説明しました。


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撮影:笹岡啓子


そして本展は「《沈む声、紅い息》から今にいたる経緯を、この展覧会の中で体感して歩けるような構成になっています。"声"の行方を辿るというか、探るような展覧会」であると伝えました。

新作《ベラウの花》
新作である《ベラウの花》(2023)は、ある高齢者という設定で山城さんの父親が映し出されています。

「父は沖縄戦の体験者ではなく、幼少期にパラオに、当時でいうと(日本の委任統治領だったため移民ではなく)出稼ぎという状況で行き、7歳から9歳までの3年間を過ごしました。その時に戦争に巻き込まれ、パラオの島を逃げ惑うという経験をして生き延び、沖縄に帰ってきました。幼い頃から父が話すパラオの記憶を聞いていて、想像しようとするんですが私が行ったことのない風景はどうしてもつくれない。それでいつか行ってこの目でパラオを見てみたいと思い続けていたので、今回は個展のための新作制作を機に行ってきました。」


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撮影:笹岡啓子

「父は高齢者の誰しもにおとずれる物忘れをするようになってきました。それと同時に昔の父とは少しずつ違ってきています。父は毎日バスで小さな旅をするんですが、昔は在沖米軍基地の横をドライブしながら通ると、反基地闘争の話や、米軍基地問題の話を熱く語ってくれましたが、いまは今日見た美しく咲いていた花の話や、新しくできた道のルートで初めて見えた山の形や海岸沿いの様子を楽しそうに語ってくれるようになりました。
もしかすると、戦争や復帰前後、いままでの米軍基地による事件事故の絶え間ない激動のなかにある沖縄の様子など、政治的な文脈で見てきた島の記憶が薄まり、いまこそ初めて沖縄の島の風景を純粋な目で見れるようになってきたのではないだろうか、と思うようになりました。それは老いによって記憶を失い衰えていく人の話ではなく、戦争に巻き込まれ歴史に翻弄されずにいたなら本来見えていたはずの、美しい島の姿がようやく見えてきているのではなかろうか、きっと私にもまだ見ることのできないような。

そう考えると、私の中で何かが溶けていくような感覚を覚えはじめて。そしてとにかくそんな父を撮影し綴っていきました。さらに言えば、バスの中から父の見る風景の先に幼いころのパラオの記憶も見ているのかもしれない、とも思い始めて。そこで、私自身がパラオに行って、今回は初めて8ミリフィルム撮影に挑みました。フィルムで撮られた映像とデジタル撮影した映像は過去と現在がクロスオーバーするようで、バスの旅を記憶と交差させるロードムービーとして描きました。」

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DSCN9603.JPGプレス内覧会の様子

「展覧会に来られる方にどういったことを感じて帰ってもらいたいですか?」という記者からの質問に対しては「(展示室を)歩いて映像空間を経験しながら観ていくというのは、映画館では得られない、自分が能動的に映像に関わっていくような鑑賞体験だと思います。音にも耳を傾けていただきたいし、ぜひ何周も歩いて映像の間で時空間を移行するような形で楽しんでほしいです」と答えました。

音が響き合い、重層的に作品を読み込むことができる展覧会。実際に体感して、当館のアンケートやSNSなどでぜひ感想をお聞かせください。



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https://www.mimoca.org/ja/exhibitions/2023/03/21/2652/