丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(以下、MIMOCA)では、2022年7月16日(土)から11月6日(日)まで、「今井俊介 スカートと風景」を開催しています。
白いキャンバスの上に、ピンク、イエロー、グリーン、ブルーなどの目にも鮮やかな色で描かれたストライプや楕円。美術家、今井俊介(1978-)の絵画はそのどれもが驚くほどビビッドな色彩に溢れています。
展示室に入った瞬間、その絵画に描かれた色だけで今井の世界に引き込まれます。インタビュー前編では作家初の美術館での個展となる本展で考えていたことと、展示について話をお伺いしました。


インタビュアー・文・ポートレート撮影/加藤孝司
展示室撮影/宮脇慎太郎

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ーまずは単刀直入に、今回の展示で考えていたことから教えてください。

今井
ストライプの作品を描き始めて今年で約10年経ちます。最初に展覧会のお話をいただいた時に考えたのは、それを並べて俯瞰して見てみたいということでした。
同じモチーフを描き続けていく中で起こる変化が見えてくるのかということに興味がありました。それと展示をするにあたり美術館からは、絵だけではなく、ストライプの作品を使った布の彫刻的なもの、舞台映像作家の山田晋平さんと一緒につくった映像作品、アパレルも一緒に見せたいというお話を伺っていたので、かなり最初の段階からストライプの作品を総覧するような展示にしようと考えていました。

ー今井さんご自身の美術館での初の個展ということで、回顧展的な内容にすることは考えなかったのでしょうか?

今井
展示室が複数に分割されているような美術館だったらそうしたかもしれません。
今回はストライプのシリーズとそれ以前の作品を同じ空間に並べたいとは思いませんでした。以前の作品は多くの人が見たことのないものだと思うので、見せる機会があってもいいとは思いつつ、今やっていることをしっかり見せる方が展覧会としてまとまりが出ると思いました。回顧展的な展示をするのは死ぬ直前でもいいのかなと思っています(笑)。

ー会場で流れる撮り下ろしのインタビュー動画でも近いことをおっしゃっていますね。

今井
制作においては、新しいものを発見しながらどれだけ同じことを続けていけるかということを大切にしています。
それと、今井俊介のパブリックイメージはあのストライプの作品でもあると思っていることもあって、このシリーズだけで展覧会ができるという意識もありました。

ー本展の展示の計画はいつから?

今井
ギャラリーでの個展の場合、早くて1年前からということが多いのですが、今回は2年半前、コロナが少しざわつきはじめた2020年初頭にお話をいただきました。
それでコロナがあんなことになったこともあり、個展のことはしばらくあまり考えていませんでした。

ーそうでしたか。

今井
最初のプランの図面を描いたのが2021年の8月19日でしたから、実質1年かからずこの展示をつくったことになります。

ー今回初披露となる新作も多く、それらは展覧会のプランの構想と同時進行で描き始めたのでしょうか?

今井
いや、今回13点新作が展示されているのですが、それらを描き始めたのは今年の1月19日ですから約半年前からです。作家にとっても長い準備期間があるのはいいことなんだろうけど、今回一番大きな横5m50cmの作品もキャンバスに向かっていたのは2週間くらいでした。
少しずつ展覧会が近づいてきても、締め切りはまだ先なんだと思えたのは自分でも面白かったです。それと今回、体に染み付いちゃたリズムって崩れないんだなとあらためて思いました。

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ー体に染み付いたリズムというと?

今井
動き始めると一気にスイッチが入るということです。僕の絵のつくり方が作業的なものが多く、普通の絵描きよりは早く描けるとは思うのですが、それにしても今回は早かったです。
全体で言えばどのような絵にするのか詳細を考えている時間もあるので、キャンバスに向かっている時間だけが制作の時間ではないんだとあらためて思いました。僕の場合は考えている時間の方が圧倒的に制作しているという感じがあって、その後は作業に集中するという意識があります。
塗り始めて、塗り終わったら完成というやり方は、自分にはそれ以外の方法では絵が描けないからそうしています。

ー考えている時間の方が長いということや、塗るという創作手法は作家さんの口から直接伺うととても興味深いです。

今井
だからキャンバスに向かっているときにはその絵について考えるということは調色以外にはほとんどなくって、だいたい次の絵のことを考えているんです。そのような状況というのは我ながら面白いと思っています。

ー今井さんの作品には同じピンクでも、隣り合う色との関係性や配置によっていろいろな表情があったり、色自体がコラボレーションをしているような感じ方して、見ていて楽しいです。

今井
色って面白いですよね。色に関して興味深いのは、そこに色があるだけで人の感情を動かせてしまうことです。
昔、ユニクロで天井まで積み上げられた蛍光色のフリースのディスプレイを見たときに、色ってすごい、色にのみ込まれるってこういうことなんだ、こういう絵を描きたいと思いました。最初は納得がいくものが描けなくて、それで蛍光ピンクのフリースを買って毎日着ていました。目にも体にも色を染み込ませて、強烈な色に慣れるに従って少しずつ色を使えるようになりました。

ー今日もピンクのコンバースを履かれていますね。

今井
確かに。絵の中にどういうことが描かれているのかということよりも、どういう色の組み合わせができるのかということに興味があります。
そもそも僕は「物語」が苦手で、誰かがつくった物語を追うのが苦痛で映画を最後まで観られないんです。何が起こるか分からないドキュメンタリーを観る方が好きです。物語性にとらわれないということも僕の作品に結び付いているんだと思います。

ー今井さんの作品にも作家の個人的な思いや物語を抜きに向き合って欲しいという思いをお持ちなのでしょうか?

今井
いや、見る側のお客さんには僕の作品をどのように見てもらっても構わないと思っています。つくり手である僕が作品の見え方を決めつけたくなくて作品名もすべて「untitled」にしているところがあります。
時に現代美術は難しいと言われることがありますが、色の組み合わせが綺麗だとか、形が面白いとかからでいいんですよね。そうやって作品を見て興味を持てば自分でいろんなことを調べてみる。そうやって少しずつ新たな視点や思考を獲得していけたらいいと思っています。

ーはい。

今井
でも日本の美術界というか美術教育界には、作品をつくること、自分を表現することの優先順位が高いとおもうんです。それが僕にはすごく不思議です。
日本で美術が普及しないのは子どもの頃からの美術教育のせいだと僕は思っています。つくることだけでみることを教えてないこともそうだし、先生が教科書や指導要領を基準に点数を決めている。
本当はつくることは苦手でも、見たり分析したりする才能がある子どもがいたとしても成績は高くならない。そんな教育方法では美術に苦手意識を持つのは当然だし、美術から距離を取るようになりますよね。

ーそういった意味ですと、MIMOCAでは子どものためのプログラムもあったり、子どもだけでなく地域に開かれた権威的ではない美術館ですよね。

今井
そうなんですよ。猪熊弦一郎さんは「美術館は心の病院」とも言っています。

ーそういった場所で展示できるというのはいかがですか?

今井
純粋に嬉しいです。僕も作家として努力をしてきたつもりですが、お話をいただいた時には、まさかあの丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で、しかも個展ができるなんてと耳を疑いました。
猪熊さんも抽象絵画を描いていましたが、抽象絵画で、しかも比較的若い現存する作家の個展をすること自体、美術界的にみれば一般的にはかなりハードルが高いはずだから、美術館側にとってもすごいチャレンジだったと思います。
だからこそ絶対にいい展示にしたかったし、実際にでき上がった展示は自分史上最高のものになったという自負もあります。

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