丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)では、2020年10月13日(火)から2021年1月11日(月・祝)まで、「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」を開催しています。
美術家の小沢剛さんへのインタビュー後編です。今回は作品についていろいろ伺いました。


インタビュアー・文 / 藤田千彩(アートライター)
撮影 / 宮脇慎太郎

BX2A4173.jpg
《第3章:ようこそ西京に西京入国管理局》制作現場にて

---会場をおとなしく絵画や写真を鑑賞しているその流れで、突然、西京人の《第3章:ようこそ西京にー西京入国管理局》が現れます。そもそもこの作品は、どういう意図でつくられたのでしょうか。

小沢
《第3章:ようこそ西京にー西京入国管理局》をつくったのは、2012年、韓国の光州(カンジュ)ビエンナーレで発表するためでした。
2012年といえば、日本人の僕にとっては東日本大震災の翌年で、放射能の問題などがあって、「このまま日本に住み続けていいのだろうか」と疑問を持っていた時期でした。
あとの2人も、政治やさまざまな問題で、自分たちが住んでいる国を離れることを考えていて、漠然と「僕たちはどこへ行くのだろう」と意識していました。
そういった想像から、この作品が生まれました。

---作品の映像には、それぞれの家族も出てきますね。

小沢
「西京人」は日本、中国、韓国のアーティスト3人の関係性だけではなくて、お互いの家族同士の交流もしっかりあるんです。
もう10年以上、利害関係もなく、いい大人たちが家族を巻き込んで、楽しく作品を作り続けています。
作品にある映像は、「西京人3人の家族みんな一緒に会おう」という内容で、それぞれの家族も出て来るし、国の違いも分かります。
こうやって楽しく他者と交流したり、国を超えた人との付き合い方があるんだ、ということも見てほしいです。

西京人『第3章:ようこそ西京に−西京オリンピック』2008.jpg
《第3:ようこそ西京に--西京オリンピック》2008

---それからこの作品は、いくつかの展覧会でも発表して、去年、東京国立近代美術館での「窓展 窓をめぐるアートと建築の旅」で展示したのですね。

小沢
そうです。おそらくこの展覧会のキュレーターは、住宅やオフィスにある「窓」という意味やとらえ方だけではなく、社会とつながる「窓」のような、広い意味で「窓」をとらえているのだろうと思います。
この展覧会は、鑑賞のルートは一方通行だから、僕たち西京人の作品を通過しないと、次の部屋に行くことはできません。
その、通るべき「窓」のような意味を持つことが、僕は面白いと思っています。

---そして「窓展 窓をめぐるアートと建築の旅」は、今年、この丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)へ巡回しました。新型コロナウイルスという大きな問題が発生して、作品の見え方や感じ方が今までとはまた違うのではないでしょうか。

小沢
いま(インタビューし202010月現在)、まだ国を超えた出入りは難しい状況で、国にしても、町にしても、ロックダウンしたり、行動を制限したり、ということが世界各地で発生しています。
こうした状況で、この作品は、内と外を分ける「窓」、あるいはボーダー(境目、国境)やポイント(通過点)を表現しているようにも感じられます。
会場では、「とびきりの笑顔か、お腹の底からの大笑い」、「お好きな歌を1小節」、「チャーミングな踊り」のいずれかを係員に見せたら、作品を通過することができるのですが、この状況に合わせて、通過できない人が出てくるかもしれません。

---通過できない、って!!

小沢
そもそも展覧会場というのは、すごい安心して、作品を見ることができる場です。
そういう場に、まったく違う見方、まったく違う参加の仕方を要求されるのが、この《第3章:ようこそ西京にー西京入国管理局》です。
作品を見た人それぞれ違った見え方がある、と思いながら、僕は美術作品をつくっているのですが、この作品が唐突に感じる人もいるでしょう。
安心しながら歩いていたのに、脱臼させられる、みたいな効果というか、ものの見方のバリエーションを突き付けられて、刺激的でいいんじゃないでしょうか。
「だってそれが人生じゃん(笑)」、だと思いますよ。

BX2A4194.jpg
小沢剛さん


画像の無断転載、使用は一切禁止です。


◎関連リンク
「西京人」とその作品 ― 美術家・小沢剛インタビュー前編
「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」