丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)では、2020年10月13日(火)から2021年1月11日(月・祝)まで、「窓展 窓をめぐるアートと建築の旅」を開催しています。この展覧会の参加アーティスト「西京人」のメンバーのひとり、美術家の小沢剛さんに、西京人や今回の展示作品について伺ったインタビューを、2回にわたってお届けします。


インタビュアー・文/藤田千彩(アートライター)
撮影/宮脇慎太郎

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《創造の広場》前にて

展覧会のタイトル通り、窓をテーマにした作品、額縁やモニターが窓のように感じられる作品、窓の内と外を扱った作品など、「窓」にまつわる作品をいろいろな切り口で楽しむことができます。
と思いながら、会場を進んで行くと、「え?ここは空港のチェックインカウンター?」と思わせるインスタレーション作品が!
そうです、これが西京人の作品《第3章:ようこそ西京に西京入国管理局》です。

---こんにちは。ひとりのアーティストとしても大活躍の小沢さんですが、この「窓展窓をめぐるアートと建築の旅」では、「西京人」のメンバーの一人として、参加されています。まず、「西京人」とは何でしょうか、教えてください。

小沢
日本人の僕、小沢剛と、中国人の陳邵雄(チェンシャオション)、韓国人のギムホンソックという、3人のアーティストが集まって、仮想国家のような作品をつくっていく、というプロジェクトです。

---え!日本、中国、韓国ですか!国の違うアーティストたちが、どうやって知り合ったんですか?

小沢
1990年代、アジア系の国際展というのがものすごく、急に増えたんです。
いろいろな国で開かれていた、こうした国際展に、僕たちは常連のように参加していたので、それぞれお互いを知っていました。
2005年、僕は中国の「第2回広州トリエンナーレ」に参加することになりました。
そのキュレーターから、「アーティストでも、違う分野の学者でも、建築系でもいいので、できればコラボレーションできないか」と提案があったのです。
ちょうどそのころ、東京の森美術館で「フォロー・ミー!:新しい世紀の中国現代美術」という展覧会がありました。
そのオープニングで、中国人の陳邵雄と会ったので、話をしたところ、二つ返事で「コラボレーションしましょう」ということになったんです。

---なるほど。「第2回広州トリエンナーレ」は陳さんと小沢さんの二人組で出したんですね。

小沢
そうです。往復書簡のようなコラボレーション作品を発表して、すごい良かったんです。
僕自身は、いつかまじめに海外のアーティストとぶつかり合って、作品を作ってみたい、とずっと思っていたので、とても面白かった。
だからそれ以降もしばらく、二人で制作をしていました。
しかし、だんだんと行き詰まっていきました。
「もう1人増やしたら何か変わるかもしれない」という話になり、お互いの共通の知り合いの、同世代で、別の国の人を選ぶことにしました。
それが韓国人のギムホンソックでした。3人組となって、名前を「西京人」と付けました。

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西京人
《第3章:ようこそ西京にー西京入国管理局》
2012年
「西京人ー西京は西京ではない、ゆえに西京は西京である。」展、2016年、金沢21世紀美術館での展示風景
撮影:木奥惠三
画像提供:金沢21世紀美術館

---「西京人」の作品は、展覧会があるたび、つくっていたんですか。それとも、頼まれもしないけど、3人で制作していたんでしょうか。

小沢
1年に12回、割と大きなステージに立てるチャンスがあったので、そのタイミングで作品をつくってきました。
誰がリーダーとかはなく、3人で話し合って、制作していくスタイルです。
ただ1回、展覧会の機会が途絶えたときがあって、「寂しいし、何か探そうぜ」みたいな感じで、作品をつくったことがあります。

---そうして2016年、陳さんが病気で亡くなってしまいました。もう「西京人」の新作は、見ることができないんでしょうか。

小沢
今のところ積極的につくってないですね。ただ、陳さんは闘病期間にアイデアや、活動が継続できるヒントを残していて、それを元にした作品も既にあります。だから別に「西京人」の活動が終わったわけではありません。

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小沢剛さん

---
日本、中国、韓国、って、とてもセンシティブな関係性に感じます。

小沢
アーティストにおいては、そんなことないです。日本、中国、韓国だからこそ、やらなきゃいけないんです。
僕たちがスタートした当初、日本、中国、韓国、それぞれデリケートな国だ、違う国だということは分かっているから、政治色が濃くなるかもしれない、という話はしたことがありました。
でも、なるべく避けよう、そういう意識ではないところからやっていこう、どうせ黙ってても少しはにじみ出てくるだろうから、それで十分じゃないか、と。
そういう考え方で進めていくうちに、国がどうのこうのとか、パスポートの違いとか、だんだんどうでも良くなっていきました。
というのも、それぞれ違う国籍のアーティストだけれども、国の代表ではないし、国家の首相会談をしているわけでもないからです。
時間が経つにつれて、ただの3人のアーティストの集団にすぎない、と気付いていったし、むしろ3人の友情、人間と人間のぶつかり合いを実感することができました。

(後編につづく)

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◎関連リンク
「窓展 窓をめぐるアートと建築の旅」
ワークショップ「西京国はどんなところ?